ロンドン1の天才犯罪者はつまらなそうにフォークで細かく切りました。
「・・・・・ほんとはね。」
ロンドン1の寂しがり屋は、小さくなったパンケーキをバニラアイスに浸して、ぱくり、と
口に含んで、咀嚼しています。
私も、いちごのソースをからませて一口。久しぶりの、デートです。
ロンドンでは珍しく日差しが暖かくて、家にいるのがもったいない気がしたから
最近できた、人気のパンケーキ屋さんへ数学教授に扮した彼とデート中です。
「僕は、のことなんか、愛してないんだよ」
雑踏の中で、ジム・モリアーティーは薄い笑みを浮かべて呟きました。
「気にいっているけどね、それだけ。」
私は、彼の言葉を聞きながら、もう一口、パンケーキを食べました。
「使うだけ使って、飽きたら捨てるつもりなんだ。」
黒い瞳は何処を眺めているのか、分かりません。
きっと白いお皿の上でしょう。
チョコレートソースと解けだしたバニラアイスが混ざって行くのを、
眺めていることでしょう。
「馬鹿な子だな、ほんとに。こんな酷い目にあうなんて、ほんとについてない」
きっと、ついてないと言うなら、ジムに目をつけられた瞬間からそうなんですよ。
私は、何も言わずフレーバーティーを頂きました。
ああ、幸せ
「デートもね、面倒なんだ、君が行きたいって言うから、連れてきて上げているし
気にいっているから、付き合ってあげてるだけ、僕は人が多いとこ、嫌いだし」
最後の一切れを口に入れて、もぐもぐと心の安らぎとストレス解消のために
甘いものを、心と脳へ届けます。
「」
さびしがり屋は、寂しそうに笑います。
「、」
私は答えません
「怒った?絶望した?憎い?それでも僕の事が、好き?」
私は答えません。空になったお皿を横にずらして、紅茶を注ぎます。
「ねぇ、聞いてる?答えてよ、」
流石、新しくオープンした人気店。
人が、次から次へと入ってきます。
ここはベーカーストリートからも近いから、もしかしたら噂のお医者様を
見れるかもしれない、なんて。
紅茶に、砂糖を二つ。星型の、可愛いやつ
「・・・・・・・・・・・・答えは、全て分かっているでしょう?ジム」
彼は、笑っているとも泣いているとも言えないような表情で固まりました。
心臓が止まってしまったのかしら、私は、フレーバーティーの香りを楽しみます。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん、嘘。全部嘘だよ。
僕お得意のやつ口から出まかせだよ、嘘。ごめんね、ごめん」
彼は両手で顔を覆いました。
周りからどう見られているのでしょうか。
別れ話をするカップルでしょうか、私はどうでもよいのですが。
「あいしてるよ」
「嘘でしょう?」
「うそじゃない、ごめんって。おこってる?」
「だって貴方、本当の事言わないんでしょう?」
「ごめんごめん、ちがうんだ、ちがうんだよ」
「ジムは私の事は使うだけ使って、捨てるつもりなんですよね」
「ちがうよ、ずっとそばにいて」
「泣かないでください」
「ないてないけど、しにそう」
「死なないでください、そして人を試すような事を何度したら分かるんですか」
ずいぶんと、冷たい声だったかもしれない。
ロンドン1の天才犯罪者はロンドン1のさびしがり屋。
人を試して、表情を観察して、傷ついた顔で、愛されていることを確認することしか
本当の愛を知れない子。
可愛そうな、子
「、ごめんね」
「晩御飯、あれがいいです、この間作ってくれた、ガーリックソテー」
「魚の奴?」
「タラで作ってくださいね」
「うん、わかった。うん、」
「じゃあ、早く食べてしまって下さい。」
「もういい、心臓ばくばくしてて、食べる気起きない」
「ご自分で引き起こしたことでしょうに」
会計を済ませて、二人、手をつないで家路につきます。
きっと私たちは角を曲がれば消えてしまいますから
さびしがり屋を愛した私は、歌いながらロンドンの街を闊歩します